世界卓球2024団体戦にて、女子インドチームが絶対王者中国女子チームを相手に
2-3と大熱戦を演じました。
しかも世界ランキング1位の孫頴莎選手、2位の王芸迪選手を破っての結果と言う大善戦でした。
中国女子チームは2010年の世界選手権モスクワ大会でシンガポールに敗れて以来
国際大会団体戦での負けがなく、世界選手権5連覇中、世界ランキングも1位の絶対王者となっています。
そんな絶対王者である女子中国チームを相手に、何故卓球では強豪と言えない
女子インドチームが善戦することが出来たのか。
今回は
卓球歴6年
市大会優勝
県大会ベスト8
県の強化合宿参加
地域大会(関東大会、関西大会など)出場
した経験を持つダンがその理由について解説致します。
是非最後までごゆっくりとお読みくださいね♪
インド女子が中国チームに善戦した3つの理由
お互いが初戦であったこと
インド女子チームと中国女子チームの実力差は大きく
下馬評を見る限り、中国が圧倒的有利なのは言うまでもありませんでした。
それでも今回善戦出来た理由の一つに、お互いが初戦であったことが挙げられます。
と言うのも、他のスポーツ競技全般に言えることですが
大会の初戦はどれだけの実績・実力があったとしてもナーバスになり
動きや思考が固くなり、本来のパフォーマンスが発揮出来ないことはよくあることです。
W杯のグループリーグ初戦で強豪国が負けることはザラですからね。
これは卓球という競技であっても同様と言えます。
加えて、強豪国は初戦にピーキング(一番パフォーマンスの高い状態)をすることは少なく
勝ち上がってベスト8や準決勝、決勝に向けて調子がしり上がりになるように
調整していくことが殆どです。
その為初戦はそもそもベストなパフォーマンスでないことも多いのが現状で
挑戦者である格下の相手に足元をすくわれる、ということが起こりえます。
今回の中国女子チームも、完全に見下していた訳ではないでしょうが
苦戦することが想像しにくいインドチーム相手に大苦戦したということは
まだまだウォーミングアップである、という心の隙や
調整が不足していたこと、ナーバスになっていたことが
原因として考えられます。
これが恐らく準々決勝やベスト4での対戦であれば中国女子チームも本調子であり、
高い緊張感で試合をしていた為もっと簡単にインド女子チームを退けていたと予想されます。
初見相手には起こりうる卓球特有の特性
そして理由の二つ目が、初見相手には起こりうる卓球特有の特性があります。
世界ランキング1位の孫頴莎選手が、世界ランキング155位のアイヒカ・ムカルジー選手に敗れた事実だけを見ると
とんでもない番狂わせのように思えますが、卓球界ではよく起こることなのです。
サッカーで言うとアルゼンチンがラオスやフィジー諸島に負けるようなものですけどね。
と言うのも、以前伊藤美誠選手の記事でも紹介したように卓球には様々な戦型が存在し、
世界的な主流であるシェークハンド 両面裏ソフトラバー使用の攻撃型
以外にも戦型がマイナーながら存在しており、これらの戦型を採用する選手は
全体的に見ても絶対数が少なく希少な存在となっており
トップ選手と言えど潤沢に時間を割いて対策を取ることが出来る訳ではありません。
今回孫頴莎選手を破ったアイヒカ・ムカルジー選手はバック面にアンチラバーを使用しており
世界ランク1位の孫頴莎選手と言えど殆ど体験したことがないような戦型の為、単純な自力の差だけでは
勝敗予想がつかない状態となっていたのです。
第三試合に王芸迪をストレートで破ったアクラ選手もバック面は粒高ラバーを使用しており
主流戦術である、シェーク両面裏ソフトではなかったことが要因とも考えられます。
これらの戦型の選手は、実力がある相手から金星を挙げられる期待値が
対戦回数が少なければ少ない程多く、その期待値が一番高い状態で対戦することで
ジャイアントキリングを成し遂げる可能性が高くなるわけです。
果たして、殆ど見たことないような戦型であるムカルジー選手に対し
明らかに孫頴莎選手が戸惑っている様子が動画でも見て取れました。
アンチラバーは相手がどれだけ回転をかけてもその影響を殆ど受けず、スピードも出ない為
日頃から回転と回転の応酬や物凄い速度で打ち合うことが
当たり前の環境下で練習をしている中国選手からするとボールが合わない、という事態が起きます。
バック側に来るボールの勢いをしっかりと殺して、スキを見て
ドライブではなく角度打ち、スマッシュのような球質で相手コートに打ち込む。
回転差、速度差に対応出来ず、調子が狂ってしまい敗れてしまうことはよくあることです。
野球でも変化球とストレートで打者のタイミング外すでしょ?卓球でも同様です。異質型はその速度差、球質差が大きいんだ。
最強中国相手に奇襲戦法は二度通じない
大金星を挙げたムカルジー選手でしたが、
2-2の同点で迎えた最後の5番手では、王曼昱選手に0-3とストレートで負けてしまいました。
王曼昱選手の実力を考えれば妥当な結果であるとも言えますが、
異質の戦型は実力のある選手にとって
特徴が掴めて対策がわかり球質が合うと、より実力差が明確になりイージーな相手になってしまう為、
ワンサイドゲームになりやすくなるという傾向があります。
恐らく中国女子チームと王曼昱選手は、孫頴莎選手、そして王芸迪選手が苦戦しているのを見て
勝つ為には何が必要なのかを短時間で分析し、修正したことでしょう。
実際に球質の予測が難しく、リスクが大きいムカルジー選手のバックハンドにはボールを集めず
サーブから徹底してフォア側を突き、フォアとフォアの戦いに持ち込みます。
奇襲戦法が最初であればある程、ジャイアントキリングの期待値が高くなり
相手に慣れられてしまうと期待値がガクンと下がる理由はその為なのです。
インドの選手の向かっていく姿勢
大善戦出来た理由の3つ目は、インド女子チームが全体的に
中国女子チームにアグレッシブに挑みかかっていったことが挙げられます。
絶対王者である中国女子チームと、負けてもともとの状態であったインド女子チームですが
そんな状態だからこそ、失うものはなく積極的に攻めこむ、チャレンジする余地が存在しました。
一方の中国女子チームは絶対王者でもあり、国技である卓球競技で負けることは許されません。
そんなプレッシャーを背負って戦う初戦ですから、安全に行きたくなる心理状態はよく理解が出来ます。
そこの隙をインド女子チームの選手が積極的に突き、失うものがない者の強さを随所に発揮し
中国女子チームを押し込んでいったことが要因と考えられます。
特に団体戦は単純な個人間の実力差だけで勝敗が決まるものではなく
チームの勢いや士気も大きく関係する為、単純な戦力差が勝敗と直結しないのもポイントとなっています。
第一戦で世界チャンピオンを沈めたインド女子チームが
そのまま勢いに乗り、中国女子チームを勢いで押し込み、あわやのみ込もうとしていたのは
妥当中国を目指す日本女子チームだけでなく他のチームにも大きな勇気を与えたことは間違いないでしょう。
日本チームは異質タイプが減り本格派の選手が揃った
日本の選手も過去異質型の選手が多かった
現在こそ卓球黄金世代である早田ひな選手、平野美宇選手に張本美和選手など
シェーク両面裏ソフトの本格派選手がメンバーに名を連ねるようになり
伊藤美誠選手、木原美悠選手等がバック表ソフトの異質型ですが
2000年代前半までの日本卓球は
シェーク両面裏ソフトの本格派選手の方が代表に選ばれる割合が少なく
カット型、ペン表ソフト前陣速攻型、シェーク異質攻撃型、ペンドライブ型等
多彩な戦型の選手が代表に選ばれていました。
女子チームでは福原愛選手が一線を退くまで
岡崎恵子選手、福岡春菜選手、小西杏選手など
異質型の選手が世界の強豪選手を相手に勝ち星を挙げるシーンが多く見られました。
男子チームはVICTASの社長を務める松下浩二さんや渋谷浩さんなどのカット型、
田崎俊雄選手のようなペン表ソフト前陣速攻型
吉田海偉選手、偉関選手のようなペンドライブ型
遊澤亮選手や新井周選手のような異質攻撃型が
長らく日本代表を引っ張っていました。
2000年後半から少しずつ本格派が台頭
しかし2000年も後半になると男子では
岸川聖也選手や松平健太選手、そして水谷隼選手等の若手が台頭し
シェーク両面裏ソフトのオーソドックスな戦型でも十分世界で戦えるようになり
女子でも石川佳純選手や平野早矢香選手等が台頭し、
少しずつシェーク両面裏ソフトのオーソドックスな戦型で世界で戦える下地が整ってきました。
2010年代に入ると男子は丹羽孝希選手や吉村真晴選手、大島佑哉選手
女子は石川佳純選手、平野美宇選手、早田ひな選手など
大半がシェーク両面裏ソフトの選手となってきました。
つまり異質な戦型を用いなくとも
オーソドックスな戦型で十分世界のトップを目指して相手と戦える程
現在の日本卓球界は底上げがされてきている、と言うことになります。
男子チームは張本智和選手をはじめ全員がシェーク両面裏ソフトの本格派となっており
この流れはこれからも当分続くものと考えられます。
オーソドックスなスタイルで再び世界の頂点に返り咲いてほしい!
勿論異質型で勝利を収めることについて何らやましいことはありませんが、
中国をはじめ現在の世界のトップクラスは殆どがシェーク両面裏ソフトの戦型となっています。
世界のトップを目指すのであれば、やはり正攻法で中国やその他強豪国から勝利を掴みとって欲しいですね。
まとめ
最後まで読んで頂きありがとうございました。
シェーク両面裏ソフトが現在の主流になっており、異質型を選択する選手は少なくなっておりますが
かつては当たり前のように存在し、大会でも勝ち進むと必ず1度は異質型の選手と対戦することが
当たり前の時代になっていただけに、少し寂しさも感じていたところではあります。
そしてどんな戦型であれ、やはり最強時代が長く続く中国チーム。
男女問わずその牙城を崩すのは並大抵のことではありませんが、
あまり強豪とは言えないインドチームが中国を土俵際まで追い込んだこと
そして異質ラバーを用いていたと言う点で考えると
今後卓球のトレンドが少し変わって来ても不思議ではありません。
今回参加する日本の男子チーム、女子チーム共に
最高の成績を目指し、力を合わせて頑張って欲しいですね!